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神戸地方裁判所姫路支部 昭和33年(わ)408号 判決

判  決

会社重役(前高砂市長)

中須義男

明治四〇年生

高砂市事務吏員

中村恭麿

大正五年生

高砂市技術吏員

菅野政夫

大正一二年生

高砂市技術吏員

前田坦

昭和七年生

高砂市技術員

奥山晴隆

大正四年生

高砂市技術員

籔三郎

大正一二年生

右被告人等に対する水道損壊(予備的訴因、水道塞)被告事件について、当裁判所は、検察官通山健治出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人中須義男を懲役一年六月に、

被告人中村恭麿、同菅野政夫を各懲役一年に、

被告人前田坦を懲役一〇月に、

被告人奥山晴隆、同籔三郎を各懲役八月に、

処する。

ただし、本裁判確定の日から、被告人中須義男に対し三年間、その他の被告人らに対し二年間、右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、鑑定人岩井重久、同山本貞治に支給した分を除くその他の分は、被告人らの連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人中須義男は、当時高砂市長をしていたものであるが、昭和三二年三月七日午後八時頃、高砂市が当時の印南郡大塩町(現在姫路市大塩町)に対し、将来同町との合併を考慮して、昭和二九年一二月頃から、水道浄水を原価を切つて供給していたのにかかわらず、当夜、同町議会が、姫路市に合併する旨決議したと聞いて憤激し、同町に対する給水を止めてうつぷんをはらそうと決意し、当時同市水道課業務係の責任者であつた被告人中村恭麿に対しその計画を告げて水道課員の召集を命じ、同日午後一〇時過頃、同市高砂町所在の当時高砂市役所三階委員会室に、被告人中村恭麿同水道課工務係技手をしていた被告人前田坦、同水道課工務係の技術員をしていた被告人奥山晴隆同籔三郎及び他の水道課員五名くらいを集合させたうえ、同市曾根町立場地内から大塩町に通ずる上水道の送水管を破壊し、その修理工事にことよせ、大塩町に対する給水を止めるよう命令し、同所に集合した全員この命令を諒承し、更に、被告人中村、同前田及びその後加わつた当時同水道課工務係技師の被告人菅野政夫は、他の水道課員中井写一らと共に、同日午後一一時三〇分頃、同市荒井町所在の当時高砂市役所荒井支所内水道課事務室において、前記送水管の破壊方法などを協議した後、まず、被告人前田、同奥山、同籔において、同月八日午前一時過頃、同市曾根町立場内浜県道(現在国道)に行き、つるはし、スコップで同所地面を掘り下げ、バールで同所地下約一メートルの個所に設置してあつた上水道送水管に穴を開けて破壊したうえ、ついで、同日午前二時三〇分頃、前記中井写一、被告人奥山、同籔らにおいて、同所附近の制水弁を閉鎖し、同日午前一一時頃までの間、前記大塩町に対する送水を遮断し、もつて被告人らは、共謀のうえ、公衆の飲料に供する浄水の水道を塞したものである。

(証拠の標目)省略

(弁護人の主張に対する判断)

吉田弁護人は、被告人らは漏水個所を修理するために制水弁を廻わして断水したもので、正当な業務行為である旨主張しているが、前記認定のとおり、被告人らは、送水管に穴を開け、それを修理するということにして制水弁を閉鎖したものであるから、この認定に反する事実に基づく右弁護人の主張は理由がない。

なお、本件の本位的訴因は水道損壊罪であり、予備的訴因は水道塞罪であるから、この点について判断を述べる。刑法第一四七条にいわゆる水道の損壊とは、水道による浄水の供給を不可能又は困難ならしめる程度の破壊を加えることをいうと解釈しなければならない。前場の証拠によれば、被告人らが、本件の送水管に土砂が覆つたまゝ、二回ほど土中にバールを突つこんで送水管に穴を開けたこと、その穴から水流が地上に噴出したこと、修理班が土砂を取り除き送水管が現われたときの穴は、当時の大塩町吏員正田三雄、高砂警察巡査色田典和各撮影の写真において見られるような楕円形のものであつたことが、それぞれ明らかであるが、それが右にいう程度の影響を及ぼすべき破壊であつたか否かは、たやすく断定しがたいところであるから、前記本位的訴因については証明は不十分であるといわなければならない。しかし、被告人らが、共謀のうえ、大塩町に対し報復のため、水道による浄水の供給を遮断する意思のもとに、一旦送水管を破壊し、その修理にことよせて制水弁を閉鎖し、送水管を掘りあげ取り替える作業をゆつくりと時間をかけてやり、午前二時三〇分頃から同一一時頃までの間大塩町民を断水のうき目にあわせたのであるから、被告人らの行為は、予備的訴因である水道塞罪に該当すると考える。

(法令の適用)

被告人らの判示行為は、刑法第一四七条、第六〇条に各該当するので、被告人前田坦、同奥山晴隆、同籔三郎については、同法第六六条、第七一条、第六八条第三号により酌量減軽したうえ、被告人らを主文第一項の刑に各処し、同法第二五条第一項により、被告人全員に対し主文第二項のように各刑の執行を猶予し、鑑定人岩井重久、同山本貞治に支給した分を除くその他の訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条により、主文第三項のように被告人全員の連帯負担とする。

昭和三六年四月五日

神戸地方裁判所姫路支部

裁判長裁判官 山 崎   薫

裁判官 古 沢   博

裁判官 緒 賀 恒 雄

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